遺贈を考えている方は、遺言書の文案を確定する前に、寄附予定先へ相談してください。先に確かめたいのは、遺贈先として記す正式名称、予定する財産の受入可否、希望する使い道の三点です。死亡後に受入れが難しいと分かっても、本人が遺言を書き直すことはできません。

遺贈は、本人の遺言によって死亡後に財産を渡す方法です。本人が生前に送金する寄附や、相続人が受け取った財産から行う寄附とは手続が異なります。

遺言文案より先に、三つの条件を受入先へ尋ねる

遺言へ団体名を書くだけでは、希望した寄附を実行できるとは限りません。受入先の回答を得てから遺言文案を整えると、名称や財産、使途の食い違いを減らせます。

遺言では、受遺者という言葉が使われます。受遺者とは、遺言によって財産を受け取る人や団体のことです。団体の通称ではなく、遺言へ記すべき正式名称を遺贈窓口に確認してください。

次に、遺したい財産の種類と概算額を伝えます。受入先が追加資料を求める場合は、案内された方法で示してください。

使い道を指定したい場合も、希望どおりに実行できるかを生前に尋ねます。受け入れられる指定の範囲は団体ごとに異なるためです。受入先が使途を約束できないときは、遺言へどのように記すかを専門家と相談します。

現物財産は、受入先ごとに扱いが異なる

不動産や株式をそのまま受け入れるか、売却後の金銭で受け入れるかは、一律ではありません。確認した公式案内でも、受入先ごとに異なる方針が示されています。

京都大学は、上場株式や不動産も相談対象としています。一方で、田畑や山林、換価できない非上場株式、債務が不明な財産などは、受け入れられない場合があると案内しています。これは京都大学の運用例であり、ほかの団体にも同じ条件が当てはまるわけではありません。

日本赤十字社は、不動産や有価証券を原則として遺言執行者が現金化し、費用や税金を差し引いた金銭で寄附するよう案内しています。WWFジャパンも換価後の金銭を原則としていますが、現物不動産について遺言作成前の個別相談を受けています。中央大学は、現金以外の財産を取り扱わないと案内しています。

この違いから分かるのは、公益に役立つ財産であっても、団体名だけでは受入可否を判断できないということです。受入先が決まる前に遺言文案を作り込むより、財産資料を見てもらうことを先にしてください。

死亡後に手続を始める人を、生前に決めておく

遺贈は、本人の死亡後に別の人が手続を進めます。遺言執行者は、遺言の内容を実際の手続に移す人です。誰が担うかを生前に決めておくと、死亡後の実行経路が明確になります。

遺言執行者は、遺言の内容に応じて、財産の確認や名義変更、必要に応じた売却、受入先への引渡しを担います。実際の権限や手続は遺言の内容と財産によって異なります。誰を指定するか、どの権限を書くかは、遺言を扱う専門家へ確認してください。

遺言者の死亡を、遺言執行者へ知らせる人も考えておきます。京都大学は、この役割を「死亡通知人」と呼び、遺言執行者へ死亡の事実を知らせる人を定めるよう案内しています。「死亡通知人」は京都大学の案内で使われる呼び名であり、全国共通の法定名称ではありません。

受入先への連絡が止まらないよう、次の情報を遺言執行者の候補や家族と共有しておきます。

  • 寄附予定先の正式名称と遺贈窓口
  • 受入先へ相談した日と担当窓口の回答
  • 遺贈する財産と、その資料の保管場所
  • 希望する使途と、受入先が回答した範囲
  • 紺綬褒章の遺族追賞について確認する窓口

共有する資料には、団体の代表窓口と遺贈窓口の連絡先も記します。死亡後に連絡する人が、受入先へ確認し直せる状態にしておきます。

遺言書の保管と、内容の有効性は別に確認する

自筆証書遺言書保管制度は、法務局が自筆の遺言書を保管する制度です。紛失や改ざんを防ぐほか、希望すれば、法務局が遺言者の死亡を確認したときに、指定した人へ遺言書が保管されていることを知らせる仕組みもあります。

ただし、法務局は遺言内容の相談には応じません。保管された遺言が法的に有効であることも保証しないと案内しています。保管の申請が受理されたことと、希望した遺贈が実行できることは分けて考える必要があります。

受遺者の正式名称、遺言執行者の権限、債務がある財産の扱いは、文案の段階で確認します。遺留分という、一定の相続人に認められる最低限の取り分も関係する場合があります。相談内容に応じて、弁護士、公証人、司法書士などへ確認してください。

不動産や株式は、税務を担う人まで確認する

含み益のある不動産や株式をそのまま遺贈すると、時価で譲渡したものとして譲渡所得等への課税が生じる場合があります。これは「みなし譲渡所得」と呼ばれる税務上の扱いです。

公益法人等へ現物財産を移す場合は、譲渡所得等を非課税とする租税特別措置法第40条の承認制度が関係することがあります。ただし、承認には要件と申請期限があり、自動的に非課税になる制度ではありません。個別の遺贈に使えるかは、税務署や税理士へ確認する必要があります。

受入先には、現物のまま受け取れるかを尋ねます。税務の専門家には、誰が申告や承認申請を行うかを尋ねます。同じ財産資料を双方に見せ、回答が食い違うときは遺言文案を確定しないでください。

紺綬褒章は、遺族追賞として確認する

内閣府の授与基準では、対象となる公益寄附について、個人は500万円以上が金額基準です。ただし、遺贈の場合、本人へメダルが授与されるのではありません。内閣府は、表彰されるべき人が死亡した場合に、遺族へ杯または褒状を授与する「遺族追賞」を案内しています。

東北大学も、遺贈による寄附が遺族追賞の対象になり得ると案内しています。ただし、これは遺贈すれば追賞が決まるという意味ではありません。対象となる寄附であることに加え、関係府省等からの推薦と内閣府の審査が必要です。

受入先へは、紺綬褒章の対象として遺贈を扱う案内があるかを生前に尋ねます。死亡後に誰が必要資料を出すのか、遺族はどの窓口へ確認するのかも尋ねます。その回答を、家族や遺言執行者の候補と共有してください。推薦の可否や発令時期は、受入先も保証できません。

一枚の相談メモを持って、遺贈窓口へ連絡する

最初に行うことは、遺言の完成ではなく受入先への相談です。財産と希望を一枚にまとめると、窓口が受入可否を判断しやすくなります。

相談メモには、財産の種類と概算額、希望する使途、遺言執行者の候補、死亡後に連絡する人を書きます。現物財産については、受入先が案内する資料を用意します。

窓口には、「この財産と条件で受け入れられるか」「遺言にはどの正式名称を書くか」「死亡後は誰がどこへ連絡するか」を尋ねます。回答をメモに残し、専門家へ見せてから遺言文案を整えてください。この順番なら、受入先の回答を遺言文案に反映できます。

確認した公式情報

制度上の事実と受入先ごとの運用を分けるため、次の公式情報を確認しました。個別の遺言、財産、税務、推薦の判断は、寄附予定先と専門家へ確認してください。

公式情報の確認日:2026年7月14日